翌日の恭子は目の下にくまをつけての登校だった。
学校への足取はものすごく重かった。
それでも義行の家の前を通るのは避けた。
「あれ、恭子じゃん。どしたの、こっちはあんたの通学路じゃないよね。」
恭子の背中から声を投げかけられた。
けだるそうにふりかえると同じ制服の女の子が立っていた。
「美智子か…」
「『美智子か…』って、なによそれ。元気ないじゃん。」
受け答えさえおっくうであった恭子は何も答えずに歩き続ける。
「ねぇ、どしたの。同じ空手部の仲ジャン。」
「…」
「あらら、目の下にくまなんかつけちゃって。こりゃ重傷だね。」
「…」
なにもしゃべらない恭子だがその表情だけで美智子は悟った。
潤んだ目、そして目元にはくま。
美智子は手にぽんとあてた。
「あぁ、わかった。こりゃ、男だね。」
恭子の足が止まった。
「実は昨日、噂で聞いたんだけどあんたの喧嘩相手に彼女ができたらしいじゃん?」
そこで恭子が口を開いた。
「う、うるさいわね。あたしがそんなことで泣くはずないじゃない。」
「へぇ、泣いてたんだ。」
笑って美智子は腕を組んだ。
「とうとうあんたにも好きな人ができたか。」
「…」
「あれ、反論しないところからして本当のことだったの?」
顔を覗き込み、美智子が恭子の顔をうかがおうとした。
すると。
「あ!」
驚きの声を上げる美智子。
泣いている恭子をまじかで見るのは初めてだったからだ。
空手部主将の恭子、気が強くて部を引っ張るキャプテンが涙を流しているのだ。
よほど苦しい想いをしているのだろう。
罪悪感にかられた美智子は頭を下げた。
「…からかって御免ね。真剣だとは思わなくて。」
右手のこうで恭子が涙をぬぐう。
「いいの。どうせ、だめだから。」
無理に作る笑顔は美智子に痛々しいものを与えた。
「もしよかったら話してくんない?」
「えっ…」
驚いたふうに顔を見上げる恭子。
「どうせ、そんな顔じゃあ学校に行ってもからかわれるだけでしょ。サボっちゃえばいいのよ。」
「でも、先生には…」
「そんなのはダチに『欠席だ』って、先生に言ってもらえばいいわけ。」
恭子の手を引っ張って、美智子は強引に行こうとする。
恭子は反抗しようとするが美智子の手に入っている力に押えつけられてしまう。
「ちょっと…あんた、そんな馬鹿力を…」
「あたしもちょっとは鍛えてるってわけよ。だてにあんたのトレーニングは積んでいないってこと。」
「え、あ、ちょっと、ねえ、あああ……」
砂煙を舞させながら、二人は学校とは違う方向へ歩いていった。
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