今日もまた、いつもと同じ朝が来た。
「いってきます。」
ガクランのボタンを外したまま外へ出て行く。
「こら、ちゃんと着なさい」
「めんどくせー」
義行はそう言うとドアを勢いよく開けた。
…と。
「おはようさん。」
「あ、あれ?なんでお前がいんの?」
いつもいる人…知香がいなくて、なぜかそこには恭子がいた。
しばらく何も話さずに並んで歩いていた。
二人とも焦れていたが…言出せずにいた。
恭子はもちろん恥かしさで、それを何かしら察知した義行はその場の雰囲気に流されていた。
「そう言えば、チカちゃんがいないな。」
一応、話合いを作りやすくするために義行は適当な話題を口にした。
彼女が今から話そうとしていることは大いに関係するということを知らずに。
「昨日彼女がうちに来て、あしたは市役所の手続とかがあるからいけないとか言ってたわよ。」
その言葉を聞いて、義行の顔は驚愕へと変る。
「なんで、お前のうちにチカちゃんが行くんだよ?」
「そりゃ、あんたがあたしに届けるはずだったプリントを彼女が届けてくれたからじゃない。」
がーーーん…
頭の上からハンマーが落ちてきたような感触を覚える義行。
「…悪いことしたなぁ。」
その残念そうな表情に恭子はすこし悔しくなるが、ここは心を落着かせた。
(今日は絶対失敗しちゃ、いけないんだから。)
二人の会話が再び途切れる。
遅刻することも忘れ、とぼとぼと歩いていた。
学校までまだ距離がある。
「あ、あのね。」
と、めずらしく今度は恭子から話を切出した。
「なんだ?」
「明日、あいてる?」
唐突な問い。義行は恭子の顔を覗き込むと、眉間にしわを寄せた。
「明日…土曜か?土曜日は暇には暇だけど…。まさかおまえ、そんなことを聞くために俺の家に来たんじゃねーだろうな。」
「…じゃあ、明日…え、映画見に行かない?」
義行の問にも答えず、一方的に恭子は攻めた。
いつもとは違う恭子の押しに義行もたじろいだ。
「お、おまえ、大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。それよりどうなの。」
すると義行の手が自分の顎に届くと考えるそぶりをして見せた。
「うーん。いや、もしかするとチカちゃんとの約束が入るかもしれないんだよな。」
「なによ、それ。」
突っ込む恭子。
「デートの約束?」
そう言った瞬間、義行の顔がボンっと爆発した。
「…」
恭子は自分の心の中にあるもやもやを感じながらも、大きく首を振ってそれらを退けようと試みた。
「まあ、どちらでもいいわよ。これとは関係があるかは分からないけど源さんがあたしに『来週の土曜11:00に待ってます』と伝えごとをして欲しいって言われてたんだけど。」
少し、違和感のある言葉だったが話をこじつけるには仕方なかった。
「…」
二人とも口を閉じたままの状態になる。
来週の土曜などという嘘は本人も十分分かっていた。
それでも、かまわなかった。
恭子は賭けていた。
「…」
考えている義行。
その間中、恭子の心臓はばくばくといっていた。なるべく顔に出ないよう平然と取繕ってはいたが。
「そっか。」
別にたいしたことの無いかのように結論づける義行。
それに対して恭子の口からは大きなため息が漏れた。
結構気持が楽になった。
「…でどうなの。映画の件は」
落着いた面持で恭子が義行に再び聞く。
義行は…。
「いや、べつに。おめーが行きたきゃ、付合うぐらいならいいぞ。」
…
「本当!?」
目を輝かせる恭子。
「あ、ああ。別にいいけど。」
「やりぃ!!」
恭子は両手を振り上げて喜んだ。
そこらじゅうをかけまわって声をあげる。
一方、義行のほうは何がなんだか分からない顔をした。
「なんでそんなに喜んでるんだよ。俺と行くのがそんなにうれしいか。」
「うん。嬉しい。」
冗談で言ったつもりの問いに思わず恭子の本音が漏れた。
義行はもちろん、言った本人の恭子も驚いた。
「あ、い、いや。まあ仕方ないから一緒に行ってあげるわ。」
「一緒に行ってやるのはこっちだろ。何、言ってんだか。」
再び義行が恭子の顔を覗き込んだ。
恭子の顔に少し、赤みが帯びる。
「な、なによ。」
「やっぱ、今日のお前は変だぜ。」
変だといわれた恭子。
それでも…いやむしろ嬉しそうに恭子は義行の腕を引張った。
「変でもいいわよ。さ、はやくいきましょ。」
「…何がなんだか…さっぱりわかんねえ。」
思わず義行は天を崇めた。
その日はいつになく穏やかな日だった。
クラス全員が予感していた血の雨を降らすことなく、授業は終った。
放課後は恭子が部活ですぐに居なくなってしまったので、主だった戦闘もなく今日が終ろうとしていた。
…ただし、空手部の部室はいつになく騒がしかったという。
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