第三章: 葛藤
放課後。
しかし、今日の放課後はいつもとは違った緊迫感に包まれていた。
『掃除のとき=喧嘩のとき』というこのクラスの図式が崩れた瞬間だからだ。
クラスのみんなは呆気に取られ、先生もおもわず目をこすった。
「…田中が掃除をしている。」
ほうきを持った義行があちこちをはいている。
「義行さん、廊下で待ってます。」
「おう。」
掃除当番ではない知香は先に帰ることもなく、義行を待つ。
なぜ、義行がこんなことをやっているかは一目瞭然であった。
クラスメイトたちはいつもの刺激がないので物足りないように感じたが、それでも(平和なことはいいことだ)という共通の観念で普通の掃除が始まった。
ただひとり、ふてくされる恭子を除いて。
普通の掃除が終わると義行は鞄を片手に廊下へ出た。
ドアを開けた瞬間、人だかりができていた。
「義行さーん!こっちです!」
そのごった返した中で一本の腕がにょこっと突出て左右に振っているのが見えた。
「おう。」
そういって、義行は人波を掻き分ける。
…いや。
「おい、田中だぜ。」
「やべ。あいつの彼女だったのか!」
逃げるようにしてナンパな男たちが立ち去っていった。
「ふん。」
鼻で笑う義行。
その様を知香はくすっと笑った。
「あ、変なところ、見せちまったかな。」
すこし戸惑って頭を掻く。
しかし、彼女は大きく顔を横に振ると
「ぜんぜん。なんか、昔と変わってなくて!」
二人で顔を見合わせると、笑いが自然と口元からもれた。
「おっと。それよりちょっとばかり待たしちゃったかな。ごめんな」
その声に反応して、知香が笑顔を返した。
「いえ、大丈夫ですよ。」
「そう。じゃあ、いこうか。」
「はい!」
…そんな二人の姿を後ろで見るクラスメイト達and先生。
こりゃ、恋人同士だな…誰もがそう思い、誰も口にはしなかった。
おとといまで『夫婦』であった、“元奥さん”真下恭子の前ではタブー中のタブーである。
そう、後ろで黙々とほうきで掃いている女には。
言ってはならない…口をつぐみ、皆はそのまま帰ろうとした。
だが、先生は言った。禁句を。
「どう見てもあれは付き合ってるワネ。」
周りのみんなは凍りつき、ひとり恭子だけが燃えていた。
ああっ、これで今度は先生と恭子とのバトルロイヤルがはじまるのか!?
クラスメイト全員が予感した。
しかし、その期待は外れ…。
「失礼します。」
帰っていった。
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