川上三雄 判定 細谷厚志
普段出来る事が、大事な時に出来ない・・・
イメージした通りの動きが普段は出来ている事を、何度も確認して自信にもなっているのに
なぜかこの日は出来ない・・・
そんなもどかしさ、歯がゆさが見ている私にも感じた。
「細谷ー、右突いて右に回ってー!」
「真っ直ぐ、下がらないでー!」
「止まっちゃ、ダメー!」
そんなこと、本人は百も承知、二百も合点。
〜「今まで自分は体格の利を活かしたボクシングをしてなかったんですよ。」
(このクラスでは飛びぬけた長身、リーチの長さを指す)
「今までは、パンチに自信あるもんだから、打ち合う事ばかり考えていましたけど、
これからは、もっと自分の体格を活かす、スピード主体の“打たれずに打つ”ボクシングに徹し、
判定でも勝てる競技なんだからKOを狙わない闘い方をします。
その方が、かえって倒すチャンスも生まれるでしょうし」〜
これは前の試合に負けた直後、「もう止めます」と言った日の2日後
彼からかかってきた電話での彼の言葉だった。
彼は変わろうと必死だった。
「最近、会長からも『お前、変わったなぁ・・』って言われるんですよ」
たまに近況報告にくる電話で彼はうれしそうに、そう話したりもした。
試合は川上選手のペースでRを重ねていった。
もう、倒すしか勝つ道はない。
以前の彼なら、強引に打って出て流れを呼び戻しかけるはずだが、
おそらく『変わる』つもりで普段、そんな練習もしてないはずだから
それも、ままならない。
セミファイナルが終わり、休憩タイムに飲み物を求めて売店に向かった私は
その売店の前で、着替え終わった彼に出会った。
「結局、何も変わっていなかったですね・・・」
そして彼は「この試合が最後」と告げると、ホールを後にして行った。
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