マタニティブルーの風に吹かれて・・・

By Moko


  第一章

めずらしくフランソワ−ズが怒っている。彼女はここ数日ジョーの家に留まっていたのだが・・・。いったいどうしたことだろう?

「フランソワ−ズおねがいだ。ちゃんと話してくれよ。なぜ怒っているんだ?」

「ひどいわ!!話すことなんて何もないわよ」

「そういわないで、ちゃんと話してごらんよ」

「そういう態度が嫌なのよ!!」

フランソワは逃げるように部屋を飛び出していった。
追いかけようとするジョー。

が、そのとき電話が鳴り出した。

「チクショー!」 ジョーはイラつきながら受話器をとった。
00ナンバーにとって電話は常に重要な知らせと思っていなければならないものなのだ。
事件の場合早く対応しなくてはならないからである。

「はい、こちら島村」
「おーーー!!ジョウよ!わが友!久しぶりだなあ!!」
007 グレートからであった。

「なんだよ、グレートか。その様子じゃ大事じゃなさそうだな。悪いけどいま忙しいんだよ。あとにしてくれないか!」
「ちぇっ!”ブルータスおまえもか”だったよ。
実はさっき張にもTELしたんだがな、同じようなことを言われたんだよ。まあ、あいつは商売繁盛しているから忙しいのも当然だが・・」
「じゃあ、切るよ!」

ジョーは受話器をおこうとした。

「ちょ、ちょ、ちょっとまってくれよ。ジョー。
あのな・・・お前さんは何だかんだ言ってもお人よしだ。忙しいとわかっていても、
はるばるイギリスからかけてきたオレの電話をきることはできず
耳を傾けてしまうんだろ?なあ、そうだろ!」
「・・・・・・。」

ジョーはやはりお人よしだった。電話をきることができなかった。
頭の中でフランソワがちらつきながらもグレートの話を聞いてやることにした。

「今、日本で毎回視聴率が30%を超えるテレビ番組があるだろう?あれが今こっち、イギリスでも放送されてるんだよ」
「ああ、ヒイロウか」
「ヒイロウ?何言ってんだよ。超SF大河ドラマゼロゼロサザエだよ」
「ゼロゼロサザエ!!」
ジョーは大声をあげた。
「うわっ。大声だすなよ。そんなに驚くこたぁないだろ」
「だってそんなの聞いたこともないよ。同じようなタイトルの番組なら何十年も続いているけど・・」

ジョーはなぜかゼロゼロサザエに興味をもった。

「そうか・・。じゃあ何にも知らないんだなぁ。今日はその話でもりあがろうと思っていたんだけど、よし!この際はじめから話してやろう」

ジョーの頭の中でちらついていたフランソワはいつのまにか消えていた。
そして、グレートの長電話へジョーはひきこまれていった。

「それでルンペン・ジンロクをやっつけたの?」
「いや・・無理だった。ところがここで〇〇五のカツヲが登場するんだ」
「〇〇五だって!いったい彼の能力はなんなんだ?」
「聞いて驚くなよ!!奴は人を騙すのがうまいんだ。この間も〇〇弐のマスヲから2万円巻き上げたんだ。おそろしいやつだよ」

こうしてジョーは6時間もゼロゼロサザエの話をし続けた。
ジョー自身いつのまにかゼロゼロサザエにはまっていた。

「・・というわけだ。来週からお前さんも見ろよ」
「ありがとうグレート。次回の”なびけ波へイ髪とともに”が楽しみだよ」

こうして長電話はおわった。
受話器を置いたとき辺りはもう薄暗かった。
ジョーは何か忘れているような気がした。
こう、自分にとってかけがえのないようなものを・・。

<フランソワ−ズ>

(しまった!)

彼はすっかり大切なかけがえのないものを頭の中から放り出していた。何たることだ!
自分としたことがゼロゼロサザエごときに・・・
あんな波へイが頭から稲妻を放つことなんてどうでも・・・いや、どうでもよくないことだが・・・フランソワに比べたらどうでもいいことじゃないか!

ジョーは広いハリケーンジョウ邸を探しまわった。

「フランソワ−。フランソワ−。お願いだ!出てきてくれよー」

と、そのときジョーは足元に何か落ちているのに気が付いた。
拾い上げてみると雑誌のようだった。

”たまごクラブ  〜 特集 マタニティブルー 〜”

「なんだって!!」 
ジョーは雑誌を床に落とした。
背中には気持ちの悪い汗がつたっていた。

フランソワはハリケーンジョウ邸から消えていた。         


第二章

(これはどういうことだ?)

ジョーは真剣に悩み始めた。

(常に気をつけていたはずなのに。まさか・・。そんなことが・・・。
フランソワ!一体どういうことなんだ?なぜ君はそんな雑誌を読む必要があるんだ!!)

ジョーは必死に自分を落ち着かせようとした。良い方に、よいほうにと考えようとした。

(まさか・・そんなはずないさ。彼女が身ごもるなんて・・。身ごもる!一体誰の子だろう?そんなのボクの子に決まっているだろうけど。
ボクの子。ボクの子かぁ。〜こんにちは赤ちゃん  私がパパよ〜いいなあー。うふふ!!
ちがう!ちがう!そうじゃない!勝手な思い込みはいけない。とにかく本人に聞いてみないと。でもフランソワはどこにいるのかわからない。
そうだ!通信機!きっと彼女はそんなに遠くへはいっていないだろうから・・。きっと通じるはず。)

ジョーがフランソワに呼びかけようとしたそのとき

”メールが一件届きました”       
 E-メールが届いたのだ。
またしても”連絡”である。00ナンバーたちは常に連絡は非常事態と思っていなければならないのだ。

(いったい誰からだろう?まさか大事件じゃ・・・。)

ジョーは届いたばかりのメールを開いてみた。
002 ジェットからであった。

<HELLO!ジョー!元気にやってるか?
このあいだスロットで6万ドル儲けたんで、いろいろ買っちゃてさ。
まず車を買って、ついでにどういうわけかパソコンも買ったんだよ。
今の時代もっていないとヤバイらしいし。
で、試しに君のところへ送ってみたんだけど、メール送ったのは初めてだからちゃんと届いているか気になるんだ。
これを見たらすぐに返事をくれないか?   
                         ジェット>

ジェットのやつ・・・。
いいなあ、6万ドルかぁ。ギャンブルに強いんだなあ・・。

ジョーはなぜか少し心がなごんだ。
そして、またしても友人の要求に答えた。

<やあ  ジェット
6万ドルはすごいなあ。
今度その車でドライブに連れて行ってよ。
ボクとジェットと・・男二人じゃなんだからフランソワ−ズも。
ああ、でも妊婦は強い振動を加えちゃいけないからだめか・・・。安静にしていないとね。
流産なんてことになったら大変だ。ボクは子どもの名前も考えはじめているのに・・。
そうだジェット!キミも考えてくれよ。いい案を期待しているぜ
             
                          ジョー>

またしてもジョーは冷静さを失っていた。途中から書いていることと考えていることが違っているのにも気づいていなかった。
しかもすっかりフランソワが妊娠していると決め付けていた。
どうやらジョーは「その車で海にいって、みんなで昔のことを語り合いたいね」などと書いたつもりでいたようだった。
ジョーは確認もせず、即、ジェットのもとへ返信した。

”メールが一件届いています”

信じられないほどの早さでまたもやジェットからメールが届いた。
ジェットもかなり焦っていたのだろう。

<ジョー!!
なんだって!フランソワが妊娠!?
そりゃービックリだぜ。
いくらオレが頼んでもあんなに拒んでいたフランソワがキミには許しちゃうのか。
フン!おもしろくねーな。
まあ、名前くらいは考えてやるよ。このオレが。おっ!たった今いいのが思いついたぜ。

     島村デキタ  っていうのはどうだ?
     双子なら デキタとヤッタ だ!
いい名前だろ?両方ともカタカナで書けるところがgoodだ。ハーフっぽいだろ。ハハハ>

ジョーはもう放心しきっていて、ジェットのメールなど読んでいないも同然だった。


第三章

通信機は通じなかった。どうやらフランソワはかなり遠くへいってしまったようだ。
ジョーは、一人あせっていた。
焦りのあまり、奥歯のスイッチを押してしまった。
ジョーは広い自分の家の中をマッハ2で走り回っていた。
もちろん家の中はめちゃめちゃに荒れてしまった。

落ち着こうとすればするほどジョーはあせっていく。
戦闘のときは冷静さを失わないのに、なぜかフランソワの妊娠(?)を考えると嬉しさと、焦りと混乱とでぐちゃぐちゃになってしまうのだった。

”ジョー”
誰かが加速中のジョーに呼びかけてきた。
加速中に普通の音などは聞こえない。誰かの脳波信号をキャッチしたのだ。

”ハインリヒ”

ジョーは無意識に彼の名を呼んだ。と、同時に加速をやめた。

「ハインリヒ。どこにいるんだ?いつうちにきたんだよ?日本へは何しに?まさか、また事件じゃ・・・」
「そういっぺんにいろいろ聞くな。」

そういうとハインリヒは天井から降りてきた。

「ハインリヒ!そんなところから・・・。いったいキミは何をしているんだ?」
「何をしているか?って。それはこっちが聞きたいね。久しぶりにキミの家に遊びに
きたら、家の中が荒されているから
事件かと思って。おどろいたよ。ほんとに。そしたらジョー、きみの加速の音が聞こえたんだ。敵の姿も見えないから、
一緒に加速しているんだろうと思って、前みたいにキミの音じゃないほうを天井に隠れて狙おうとしたんだ。だけどいつまでたってもキミの音しか聞こえないから呼びかけたんだよ。通信機で。」

「そうか・・。驚かして悪かったよ。で、事件か何かあったのかい?突然うちにくるなんて」
「いや、ちょっといろいろトラブルがあって国にいられなくなったんだ。久しぶりにギルモア博士に会いに・・って思ったんだけど、
留守でさ。本当は連絡してからここに来ようとおもったんだぜ。だけどいつまでたっ
ても電話がつながらないから直接来たんだよ」

ハインリヒはジョーをじろじろ見ながら言った。

「博士のところに泊めてもらおうと思っていたんだけど・・・そういうわけだから今日は悪いけどキミのところに泊めさせてくれ」
「ああ、いいよ。ところでハインリヒ、夕食は?まだだろ?いま、張に頼んで何か持ってきてもらうよ」
「悪いな、ジョー。後で部屋の片付け手伝うよ。それと・・・」
「ん?何だい?」
「服着替えたほうがいいぜ。ボロボロだ。」

マッハ2で走り回っていたジョーに普通の服は耐えられなかったのだろう。ビリビリに裂けていた。 
 


第四章

「おまちどうアル。おいしいもの持ってきたアルよー」

張々湖が出前を持ってきた。遠いところからはるばる・・・。

「ありがとう張々湖。さっきも言ったけど、ハインリヒがきているんだ。一緒に飲まないかい?」
「そう思って早く店閉めてきたアル。酒もたあんと持ってきたアルよ。さあ、ノモー、ノモー!」

半分片付いた部屋の中で三人は宴を始めた。
ジョーはフランソワのことなどすっかり忘れたようになっていた。

「そんでさー、運転中に人が飛び込んできたんだよ。そいつが運悪く当たり屋だったもんだから、毎日家にどなりつけてきて大変だったよ。オレの右手はいつもうなっていたんだが、普通の人間にオレの能力を使うわけにはいかない。ポリスもヤクザは相手にしない。
だから・・」
「だから?」
「だからしばらくここへ。安全な日本に身を隠そうと思ったんだ。」
「ヒョ−!004 アルベルト・ハインリヒはいつも大変アルねー」
「そんで、張、お前さんのところで雇ってくれないか?」
「チョット!短期採用はしてないアルよ」
「ちぇっ。けちな奴め!」
「ハハハ・・・・」

宴は盛り上がり、最高になった。

「それではこれから006 張々湖の手品始めるアルよー」
「よっ!大統領!」ハインリヒは死語を好むようだ。
「ちょっとこの手品、ハンカチ使うアルねー。おっ!都合よくこの散らかった部屋にかわいいハンカチが落ちてるアルよ。
ヒラヒラレースのこのハンカチを今からハトに変えるアルよ。ほいっ!イー アル サン・・・・・・・ん?」

張の手が止まった。
ハインリヒもジョーも目を丸くした。
ハインリヒは驚いてしゃっくりが出てしまった。

「おい!張、それのどこが ヒクッッ ハトなんだよ!
ハトじゃなくて ヒクッッ そりゃ パンツじゃないか! ヒクッッ」
「わ・・・わいは何もしとらんアル!こ・・・こんないかがわしい手品、いくらサービスでもやらんアル。
ん?もしかしてこれ、はじめからパンツだったあるか?うん!きっとそうアル。」

張とハインリヒはジョーを見た。
ハインリヒのしゃっくりも止まった。

「ジョー、お前さては女とねんごろになっているな?そうだろ?お前の家にこれが落ちているってことはお前が変態かそうじゃないかってことだ。オレはお前が変態じゃないと信じる!
相手は誰だ?たくさんいるのか?この際教えろよ。バア−っと」
「そうアル!教えるアル!ただ食い帳消しにするアルよ。」

二人は酒の勢いが増していた。

ジョーはせっかく忘れていたことを堰をきったように思い出してしまった。
ジョーはまた冷静さを失いかけた。

「ジョー 早く言うアル!言わないとこの雑誌に火をつけるアルよ」
「まて!張!」

ハインリヒは火を吹こうとした張の口に手を当てた。
そして雑誌をとりあげると
「マタニティーブルー?!」  
と低い声でつぶやいた。
   


第五章

「じゃあもうワテはこれで失礼するアル。酢豚の仕込みをしなきゃアル。
ジョー、とりあえず、事実を見ないで変な妄想するのは良くないアルよ。
じゃ、サイナラ」

張々湖は店の準備の為、深夜2時、ハリケーンジョウ邸を出た。

ハインリヒとジョーはまだ飲んでいた。

「ジョー、張の言うとおりだぜ。まだ何も事実として分かっちゃいないじゃないか。
勝手に悩んでいるのはただのバカだぜ」

ジョーは深いため息をついた。

「でも、ハインリヒ、ボクには思い当たるふしが嫌というほどあるんだ。どうしても悩まずにはいられないんだ。
今朝の彼女の怒りようは、今までに見たことのないものだったし・・。きっと彼女も混乱して、あんなにヒステリックに
なっていたんだ。ボクに真実を伝えるのが怖くて逃げ出したんだよ。多分。ああ、いったいどこへいってしまったんだろう・・・」

ジョーはとてもいたたまれない気もちになった。
フランソワの笑顔が頭のなかで浮かんでは消えた。
彼女はいまどうしているんだろう?
もし、このままもどってこなかったら・・・・。

「うわーっ!!
ボクはなんて無責任な男なんだ!
ハインリヒ、もうボクは自分が嫌になったよ。」

ハインリヒはジョーに向かって言った。

「まあ、そう言うな。・・・・ちょっと休憩しないか?さっきからずっとそればっかりでキミも疲れたろ?
それ以上悩んだところで何も解決しないんだし。
テレビでも見て、自分を落ち着かせるんだ」

「何いってるんだよ。こんなときにテレビなんか見れるものか!
第一深夜だし、何もやってはいやしないよ!!」

ジョーは怒っていたが、構わずハインリヒはリモコンのスイッチを入れた。
画面が映り始めた。

「おお!ジョー見ろよ!アフリカの草原が映ってるぜ。なんだかピュンマを思い出させるなあ。
あいつ、どうしているだろう?」

テレビにはシマウマの群れやライオンの親子、キリンなどが映っていた。
悠々としたアフリカの大地。

(ライオンか・・・・そういえば昔、フランソワと一緒にアフリカヘ行って、黄金のライオンを・・・・)

ジョーの目に涙が込み上げてきた。懐かしさと、いとしさと、今日一日の混乱の疲れと・・・。
ジョーは子どものように泣きじゃくった。

ハインリヒはおどろいた。
こんなに取り乱したジョーを見たのは初めてだったからである。
だが、彼はまるで父親のようにジョーに接した。

ハインリヒはジョーをそばによせ、肩を抱きながらいった。

「ジョー、とりあえず今日は寝ろ。キミはつかれきっているんだ。もう考えるのはよそう。
明日になれば、何かが変わっているかもしれない。フランソワだってひょっこり帰ってくるかもしれない。
さあ。寝ろ。何も考えずに。」

そういうと、ジョーはハインリヒの肩に寄りかかった。
幼い子どもが父親に甘えるように。
そしてジョーはまぶたをそっと閉じた。

ハインリヒはまだ幼さの残るジョーの寝顔を見て、少しほっとした。
そして、自分も眠りにつきはじめた。

テレビにはまだアフリカの草原が絶えず映っていた。

二人が熟睡しはじめたころ、画面にはピュンマの姿があった。

ピュンマは多くの村人の前で、演説をはじめていた。

”我々が闘わなければ、いったい誰が密猟者と闘うのか!
この美しいアフリカの大地に住む、生き物たちは、一部の悪どい人間どもの手によって・・・・・・”

力強いピュンマの演説。それを見守る村人達。

どうやらこのアフリカの草原はドキュメンタリー番組の一部だったようだ。   


第6章 (1)

”オキロ、 ジョー、 オキルンダ”

このカタカナの呼びかけは・・・?

イワンだ!
イワンがボクに呼びかけているんだ!
でも・・・なぜ?

ジョーは疑問を感じながらも、とりあえず目を覚ました。
だが、辺りにイワンの姿は見当たらない。
ともかく、イワンがどこかからジョーの心に呼びかけていることだけは確かだ。

”なんだい?イワン?”
ジョーはイワンの呼びかけに答えた。

”ボクハ ユメノナカデ キミタチノ ヨウスヲ ミテイタ。
ジョー、 キミノ カンチガイハ ハナハダシイ。 ボクハ イテモタッテモイラレナクナッテ キミヲ オコシタンダ。
アンナニ ヒトリデ サワイデ・・。
ナゼ キミハ フランソワ ガ ニンシンシタト オモッタノダ?”

”なぜ?って。あの雑誌を見ただろ?
それに昨日の、今までに見たことも無いような怒りよう。
あれは絶対彼女も混乱していたんだよ。わかるだろ?
思ってもいない事態に直面して・・・”

イワンはちょっとあきれたような声をだして言った。

”ジョー、ニンゲン ソンナニ カンタンニ コドモハ デキナイヨ。マシテ キミタチハ サイボーグ ダ。

・・・イマハ ソンナコトヨリモ キミニ ミセナキャ ナラナイモノ ガ アル。
セツメイ スルヨリモ ウント セットクリョク ノ アルモノ。
ソウ シンジツダ!”

”なんだって!?”

すると、ジョーの目の前にフランソワの姿が現れた。
いや、現れたのではなかった。イワンが現在の彼女の様子をジョーに見せているの
だった。

”サア!ヨクミルンダ!!”

場所は病院の一室のようだった。
ベットにはお腹の大きな妊婦が、そのそばにはフランソワがつきそっている。

”これは・・?どういうことだ?イワン”
”マダ ワカラナイノカ?キミハ。
ジャア カノジョタチ ノ カイワ ヲ キイテミロ。
ソレッ!”

たちまちジョーの耳に彼女達の”話し声”が聞こえてきた。

「大丈夫よ、ジュン。マタニティーブルーは誰にでも起こりうることよ。誰だって出産前には不安になるわ。特にあなたは一人で頑張らなきゃならないんだし・・。」

「ありがとうフランソワ。ごめんね突然こんな遠いところに呼び寄せちゃって。頼れるひとがあなたしかいなかったのよ。だってあいつは妊娠中の私を捨てて、他の女と・・」

フランソワの友達”ジュン”は泣き出してしまった。
それをやさしくなだめるフランソワ。

「いいわ。ジュン。それ以上何も言わないで。あなたが辛いことはよくわかるわ。今は思いっきり泣いて。気が済むまで泣くのよ。そうじゃないと笑顔で赤ちゃんを迎えられないわ。」
「ううっ。フランソワ・・・」

ジョーの目にはフランソワが天使のようにうつっていた。
ああ、キミはなんてやさしいんだ・・・。

”コレデ ワカッタダロウ? ”

イワンの呼びかけと同時にフランソワの映像は消えた。

”カノジョガ アノ ザッシヲ ヨンデイタノハ ジュン ノ タメ。 ジュン ハ マエカラ フランソワニ ソウダンヲ モチカケテイタ。シュッサン ガ フアンデ ショウガナカッタンダ。ダカラ フランソワ ハ カノジョヲ スクイタイ ト オモッテ アノ ザッシ ヲヨンデイタ。ソシテ キノウ キンキュウノ レンラクヲ ウケテ ココカラ トテモ トオイ ビョウインニ ムカッタンダヨ。”

”そうだったのか・・。なんだか一人で勘違いして、勝手に大騒ぎして・・ボクなんだか恥ずかしいよ。張にもハインリヒにも迷惑かけちゃったよ。謝んなきゃ”

”ソノマエニ アヤマルヒトガ イルダロウ?キノウ オコッテ デテイッタ キミノ ダイジナ・・・”
ジョーは はっとした。

        <フランソワ!!>

”・・・でも、イワン。ボクはどうして彼女が怒りながら病院に向かったのかがわか
らないよ。それってやっぱりボクが原因なの?”

”オコッテ イタノハ キミガ カノジョ ノ タンジョウビ ヲワスレテイタカラダ。オコッテ ヘヤカラ トビダシタ アト ジュン カラ フランソワノ ケイタイ ニ レンラク ガ ハイッテ デカケテ イッタンダヨ。
フランソワ ハ キミニ デカケルコトヲ ツゲテイッタノニ
ソノトキ キミハ・・・・”

”ああ、言わないでくれ!グレートの話に夢中になっていて気づかなかったんだよ。
だってゼロゼロサザエが面白くて・・”

”ホントニ ジョウガナイナ。”
イワンはため息をついた。

ジョーは自己嫌悪に陥った。
誕生日を忘れる男なんて最悪だよな・・・。
フランソワに何て言って謝ろう・・。

”ジョー キミハ オチツキガ ナサスギル。アノ レイセイサ ハ ドコヘ イッタンダ?ボクハキミヲ リーダー トシテ ミテイクコトニフアンヲ カンジタヨ。マッタク!!モウッ!!”

ジョーはますます自己嫌悪に陥った。

”・・・・マア、キミモ コレデ ジュウブン ハンセイ シタダロウ?
フランソワ ト キミノ ナカガ アッカ シテシマウノハ ボクニ トッテモ フツゴウダ。
ナカマ ガ バラバラニ ナッテシマウ オソレガ アル。
イマカラキミヲ フランソワ ノ モトニ テレポート サセル。デモ チョット ソノマエニ・・・。”

そういうとイワンはロシアの宝石店から高そうな指輪をテレポートさせた。
そしてそれをジョーの手に移した。
驚くジョー。

”イワン・・これは・・”
”イイカラ。コレヲモッテ カノジョノ トコロヘ イクンダ。サア ハヤク! ジュンビハ イイカイ”
”ありがとう!イワン”

ジョーはイワンにとても感謝した。
と、同時に”これって泥棒じゃ・・・”という思いもした。
でも気にしないことにした。                 

(待っててくれ!フランソワ!)


第六章 (2)

ジョーはちょうど病院から出てくるフランソワに遭遇した。
フランソワは目の前にいるジョーを見て驚いている。

「ど・・どうしたの!?ジョー!
どうしてここに?
なんでここが分かったの?」

フランソワは不思議でしょうがなかった。
彼女は病院の場所までは伝えていなかったのだから。

「キミのいるところはどこでもわかるのさ・・」

ジョーはちょっと照れながら言った。
そしてまたすぐに真剣な顔でフランソワを見つめてこういった。

「キミに謝りたいことがある・・」

そういうとジョーはフランソワの右手をとった。
そして、ズボンのポケットから高価そうな指輪を取り出して
フランソワの指にそっとはめた。

フランソワは何がなんだかわからない。
ただただ驚くばかりである。

「ごめんね。忘れていて・・。
ちょっと遅くなっちゃったけど・・。
ハッピーバースデー!! フランソワ!」

フランソワは驚きを隠せない。
それをいうためにジョーはわざわざこんなところまで・・。
フランソワの目には涙が溢れてきた。

「ジョー。やっぱり覚えていてくれたのね。」
彼女はすごい勢いでジョーに抱きついた。

「うれしい!ありがとう!」

そういうとフランソワはジョーにそっとキスをした。
フランソワの涙は止まらない。
ジョーも彼女を強く抱きしめた。
もう二度と放さない・・・。

こうして二人は病院のまえでいつまでも抱き合っていた。

”メデタシ メデタシ・・・”
イワンは二人の様子を見てほっとするのだった。

最終章

何も知らないジェットはフランソワが妊娠したという一大事を伝える為に例の車でジェロニモのいる南米へと向かっていた。

(チクショー!!なんでジョーがオレの先をこすんだよぉ!くやしいー!!)

ジェットは悔しがっていたが、それでもジョーの子どもの名前を考え続けていた。

(やっぱり、”島村デキチャッ太郎”のほうがいいかな・・・。
ううん・・でもイマイチのような・・・)

南米 ジェロニモの家

「よう!ジェロニモ。久しぶりだなあ。相変わらずデカイな」
「オウ!ジェット!ひさしぶり。何の用だ?」
「あのな・・・この前・・」

ジェットは少し興奮しながらフランソワの妊娠の話をした。
驚くジェロニモ。

「そうか!それはメデタイ!
オレ、安産できるようお守りつくる!」

そういうとジェロニモは小屋から手ごろな大きさの木を持ってきて、せっせと彫り始めた。
負けず嫌いなジェットは自分も木を見つけてきて彫ろうとした。
が、バカらしくなって途中でやめた。

(こんなことに時間を使っている場合じゃない)

ジェットはせっせと木を彫っているジェロニモを横目にベットへ向かった。
そして仰向けになってまた子どもの名前を考え始めた。

(オレは絶対名づけ親になってやる!)

ジェットはなぜかいつまでもこだわっていた。

数日後・・・。

ピンポーン。

「島村さーん!宅配便ですよー!島村さーん!」
「はーい!」

フランソワは慌てて玄関に出た。
「ごめんなさい。いま島村ジョーはちょっと出かけているんですよ。」
「そうですか。でもハンコがあれば別に本人がいなくても構いませんから。ハンコお願いできますか?」
「ええ、じゃあちょっと探してきます」

(どこかしら・・)

フランソワはハンコを探すため部屋の中を見渡した。
こういうとき彼女の目はとても役に立つ。

(あった!この中だわ)

引き出しからハンコをとりだすとまた玄関へいそいだ。

「はい、ハンコ。いったい誰からかしら?」
「アメリカからの郵便ですよ。いいですね。あなたのご両親からですか?それともお友達?
ふふっ。いいですね・・アメリカ・・・」

配達人はアメリカをうらやみながら消えていった。

フランソワは小包の送り主を見た。
ジェットとジェロニモからだった。

(まあ!あの二人からだわ。一体何かしら?気になるけどジョーが帰ってくるまで待ったほうがよさそうね。)

フランソワは見たい気持ちを押さえてジョーの帰りを待った。

(しばらくして・・・)

「ただいまー」
「おかえりなさい。
ねえ、ジョー、今日小包が届いたのよ。ジェットとジェロニモから。
すごく気になって、ちょっとあたしの目でのぞいちゃおうかな?っておもったんだけど我慢したのよ。ねえ、早く開けて。何か気になるの。」

「うん。分かったよ。じゃあ、開けてみようか。
何だろう?キミへの誕生日プレゼントかな?」

ジョーは小包を開け始めた。
わくわくするフランソワ。

「な・・なんだ??」
ジョーは息をのんだ。
「えっ?何おどろいているの?うふふっ。そんなにすごい物なの?あたしにもみせてよ!」
フランソワは箱のなかをのぞいた。
「!」

そう、箱の中にはジェットの汚い字で書かれた

   < 命名  島村 ヤットデキ太郎 >

という札と、子宮の形をした木彫りのお守りが入っていた。

「ジョー・・・・何・・・これ・・・・」
「・・・・・・・」

二人はただただ沈黙を守るのだった。 

ゴーン。                               

最終章 完

管理人より
 いかがでしたか?
 なかなか愉快なお話でした(^^)
 ちょっと抜けたおっちょこちょいなジョーと、強気なフランちゃん、何だかんだいいながらそんな二人のことを見守ってるみんな・・・。
 そんな愉快なゼロゼロナンバーが繰り広げる、ユーモアたっぷりな世界・・・。
 これぞ「プリ花」の王道を行く!というお話でした(^^)
 モコさん、どうもありがとうございました。
 この作品へのご感想は「ローエングリン」か
kulara@d8.dion.ne.jpまでお願いいたします。