「フロイト1/2」

白泉社文庫『フロイト1/2』より。1996年初版、定価610円。
掲載作品・・・「フロイト1/2」「たじろぎの因数分解」「悪魔を知る者」「真実のツベルクリン反応」「花にうずもれて」「メロウ・イエロー・バナナムーン」「ジュリエット白書」の計7作品。

 

あらすじ

小田原公園で「風呂糸屋」と名乗る奇妙な外国人(G・フロイトの魂)から「夢の提灯」を買った瀬名弓彦(19歳)と篠崎梨生(8歳)。「東」と「西」の2つで1セットのその提灯は、持っているとお互いに夢の中で会うことができる不思議なアイテムだった。
その後弓彦は親友の八木沢と2人で冬山を登山中に遭難してしまうが、その提灯のおかげで幻覚の中で梨生に会い、正しい道を教えてもらって九死に一生を得る。

10年の時が流れ、弓彦は社会人になっていた。遭難したときの莫大な救助費用の返済のために働き詰めだった彼の母は若死にしてしまい、そのことが弓彦の人格を変えてしまっていた。「金が全てだ」彼はそう信じる人間になっていた。彼は八木沢と一緒にゲームソフト開発会社を立ち上げ成功していたのだが、八木沢にも「多けりゃ多いほどいいんだよ、金は」と言い切り彼を深く幻滅させる。

一方、高校生になっていた梨生は、偶然弓彦の勤めるゲームソフト開発会社にアルバイトとして働くことになった。2人ともはじめは気づかなかったが、「夢の提灯」のために夢の中で再会して互いを確認しあう。梨生は再会を喜ぶがなぜか弓彦は彼女のことを疎んじる。昔と変わらない純粋な心を持ち続けている彼女が、変わってしまった弓彦をいらつかせるのだ。

ある日、耐えられなくなった弓彦は梨生の目の前で自分の「夢の提灯」を燃やしてしまう。深く傷つく梨生。そのうつむく姿は、かつて深く傷つけた八木沢の姿でもあった。激しく痛む弓彦の良心。
その夜、夢の中に10年ぶりに「風呂糸屋」が現れて・・・。


★はじめて読んだ川原泉の作品がこれでした。いや〜、梨生ちゃん大好き。(*^o^*) か〜らさんの作品に登場する主人公って、不器用でのんびりぽやんとした少女が多いですよね。その分だけピュアーな心を持ちつづけているというか。「世間の流れに無理にあわせることはない、自分は自分のままでい〜のだ」という作者の声が聞こえてくるようです。

変わってしまった弓彦は、そのために八木沢にしろ梨生にしろ昔の自分を知る人間を深く傷つけてしまうのですが、そのことに自分自身は無自覚なのですね。彼が感じた「ずきずき」は、彼自身の無意識からのメッセージなのでしょう。「どうして俺はこんな人間になってしまったのか」という。

「夢の提灯」は、人間にとっての大切なものを象徴しているのだと思います。弓彦にとっては、過去だったり純真な心だったりするのでしょう。梨生にとっては「ともだち」に会うことができる不思議な道具。
それを自分で燃やしてしまった弓彦は、本当に大切なものは何も無い人生、孤独な「夢の砂漠」を味わわなければなりませんでした。
あの時、彼が自分の内なる声を無視していたら、無意識からの使者「風呂糸屋」の言葉を無視していたら・・・一生「夢の砂漠」をさまよいながらひとりぼっちで過ごしていたのかもしれません。夢でも、現実でも。
(2001/11/1)