●1969年。数年後にグラム・ロックのスーパースターと呼ばれることになるDavid
Bowie/デヴィッド・ボウイは、ライヴがきっかけである無名バンドに出会いその特異なサウンドに感銘を受けた。彼はロンドンでのライヴにそのバンドも加えることを主張したが、様々な事情で結局その話は流れてしまった。
しかしそのことがきっかけで英大手レーベルであるパイ・レコードに注目された彼らは、パイの傘下レーベルであるドーン・レーベルと契約することとなる。そして71年、1stアルバムを発表。
彼らの名はコウマス。デビュー作は"First
Utterance"と名付けられた。
バンド名の由来は、イギリスの誇る大詩人ジョン・ミルトンが1634年に残した仮面劇「コウマス」から。コウマスとはギリシャ/ローマ神話に登場する欲望と快楽の神の名である。
鬼才Roger Wootton/ロジャー・ウットンを中心とするコウマスが満を持して発表した"First
Utterance"。しかしながらこのデビューアルバムを待っていたのは賞賛ではなく酷評と無理解の数々であった。
女性ジャーナリストPenny Valentineはこう評した。「歌劇『マクベス』のイカレた魔女のコーラスと、マーク・ボランのサウンドとを混ぜてぐっちゃぐちゃにしたような音楽だわ!」
音楽雑誌"Record Retailer"のある評論家はこう言った。「無関係な音楽の数々がミックスされているが、調和とは程遠い。こんなものが果たして売れるのかどうか見当もつかないよ」
音楽雑誌"Record Mirror"のLon Goddardは「テープを早回ししたTレックスみたいだね!」と一笑に付した。
大手音楽専門誌「メロディ・メーカー」のMichael
Wattsは、彼らのサウンドをジェネシスのそれに引き付けて捉え「ジェネシスが成し遂げたあの音楽、難解さとポップさとを融合した構築性の高いあのサウンドを、コウマスも目指しているのだと思う」と好意的に論じた。しかし最後にこう付け加えるのを忘れなかった。「・・・でも、私は好きじゃない」
当時最も好意的に評したのはおそらく音楽評論家Ray
Telfordであった。「コウマスは個性豊かなアルバムを創り出そうと努力し、その努力はついに報われた。きっと多くのリスナーに感銘を与えることだろう」 だが彼もまたこう付け加えることを忘れなかった。「・・・もっとも、私にはこの音楽の魅力はよくわからなかったのだが」
・・・メディアに酷評されたデビューアルバムはセールス的にも失敗だった。宣伝力不足のためライヴ活動も満足に行なえなかった。ごく一部の熱狂的なファンを除き、誰にも注目されないまま3年が過ぎた。
74年、R・ウットン、Andy Hellaby、Bobbei Watsonの3人を残して大幅にメンバー・チェンジしたコウマスはヴァージン・レコードに移籍。元ヘンリー・カウのLindsey Cooper、元ゴングのDidier Malherbe、後にホークウインドに加入するKeith Haleの強力な3人のメンバーを新たに加えて"To Keep from Crying"を発表する。メンバーの話題性もあって前作に比べ注目を集めたものの、結局この2ndアルバムが彼らの最終作品となってしまった。
同時期にR・ウットンは短期間ソロで活動、シングルなどわずかながらも作品を残した。しかしその後の彼の消息は不明。
彼以外の5人のオリジナル・メンバー達のその後についてもまったくわかっていない。
(2001.12/28)
| Discography(正規アルバム) ※発売年、タイトル、レーベル |
1971 "First Utterance" Dawn
1974 "To Keep from Crying" Virgin
"First Utterance"/「魂の叫び」(1971年、1st)

↑ロジャー・ウットン本人によるジャケ。「宮殿」並のインパクトであります。

↑リスナーの無意識を刺激して止まない曲の数々。

↑メンバー写真もご紹介。中央のメガネをかけた人物がウットンさんです。な、なんかやばげなオーラが出てますな。あまりお友達にはなりたくないタイプかも。。。^^;

↑編成、使用楽器。このシュールな絵はメンバーのGlen Goringによるもの。強烈な表ジャケといい、どうも皆さん特異な世界と才能とをお持ちだったようで。。。
★闇に生まれ闇に消えたコウマスの、美と狂気渦巻くデビュー作(71年)。私にとって究極の作品の一つであります。
本作に脳を焼かれてからというものこの音楽世界を求めてずいぶんとさ迷いましたが、近いテイストのものはあれど未だこれを超える作品はなし。ないのですよ、これほどのものは。。。
私はベースとなるサウンドから「フォーク、トラッドの泉」に入れましたが、普通はプログレッシヴ・ロックあたりにジャンル分けされるのでしょう。しかし、ブリティッシュ・フォーク、民族音楽、サイケ、シアトリカル・ロック、プログレ、前衛、クラシック、それらの要素が混然となったこのサウンドをカテゴライズすること自体に無理があります。
注目すべきはその特異な音楽性。原始の祝祭を思わせるようなカオティックで暴力的なサウンド、妖しいエロティシズムに彩られた危険極まる猟奇的世界、体温すら感じられそうななまめかしい美しさ・・・。「禁断の実」が音楽にもあるとするのならば、この作品こそそれでありましょう。一口齧ってその禁断の味に魅了されればもはや普通の音楽では満足できない体になることうけあい。もっとも、一口齧って「んじゃこりゃ!」と吐き出してしまう方が大部分なのでしょうが。(^-^;)
上記の解説でも「んじゃこりゃ!」な評論家諸氏が色々とこきおろしていますが、同じアルバムの論評とは思えないくらい人によって捉え方が違うのが今となっては興味深い。当時としては理解に苦しむサウンドだったのでしょう。しっかし、ジェネシスはともあれTレックスというのはわかるようなわからんような・・・。
現代の耳で聴けば、理解に苦しむ難解さや前衛趣味というのはまったくと言って良いくらい感じられないんですがね。感じられるのはただただその楽曲の素晴らしさ、確かな技量と高い音楽センス、そして魂の最深部を揺り動かすような異様なパワー。あっちの世界にイきそでイかない、現実と狂気の狭間にあやうく花開いた音楽空間がここにあります。
最初にこのアルバムを聴いた時は、無意識をわしづかみにされるようなショックを受けたものです。それから何百回、何千回と聴きましたが、飽きるどころかますますその世界に引き込まれていく自分がいるのです。なにか、自分が無意識のうちに抑圧してきた魂の暗黒面を揺さぶられるような、あるいは封じ込めていた粗暴でエロティックな情動を掻きたてられるような、この感じは一体・・・?何とも不思議な、そして危険な作品であります。
のっけから不安を誘うイントロから始まる@"Diana"。綺麗なようで微妙にズレた男女コーラスと不協和音混じりのギターとが異界への案内役を務めます。イってらっしゃい、さよ〜なら〜。^^;
ひゅるるる・・・と幽霊が出てきそうな音から入るA"The
Helald"は、初期スティーライ・スパンや初期マリコルヌにも通じる幽玄極まる美しい曲。本作中最もトラッド色の強い曲でしょう。女性ヴォーカル(どのメンバーだかわからんのですが)の美声といい中間部の幻惑的なアルペジオといい確かに儚く美しい曲なんだけど・・・どこか紙一重の狂気、みたいなのが感じられますね。子供が聞いたらおびえて泣き出しそう。
猟奇ロック(?)B"Drip Drip"は凄まじくもヤバい曲であります。彼らの隠れた特色に「リズムの切れの良さとドライヴ感」があると思うのですが、この曲はバリバリのノリノリ!とても邦訳できない猟奇的な歌詞とあいまってほとんどサバト状態であります。特に煽りたてるようなパーカッション・ワークとパガニーニばりのヴァイオリンは特筆もの。ギターもすげえ。ダイナミックなアンサンブルのカッコ良さに血も沸き立ちます。この曲にはまり狂ったmichiyoさんが夜な夜な味噌汁作りながら踊りまくっていたのは有名な話ですが、むべなるかな。(^-^;)
欲望と快楽の神、コウマスを称えたC"Song
to Comus"もまたヤバさ爆発の曲。これまた邦訳できませぬ。なにしろ世にも珍しいレイプ・ソングでありますので。。。^^; しかしまあ、よく発禁にならなかったな、こんな曲。何かが憑り移ってしまったようなR・ウットンのヴォーカルは、もはやこの世のものならず。
Dの"The Bite"は強暴なリフを刻むギターと踊りまくるフルートとが印象的なナンバー。誰もが無意識に抱える秘めやかな欲望と不安とを表現したE"Bitten"と併せて一曲と考えて良いでしょう。しっかし、「美と狂気のサウンド」ばかりがクローズアップされるあまり見過ごされがちですが、こいつらの演奏技術とアンサンブルは実に高水準ですね。ただ巧いだけじゃなく、技術を乗り越えた華というかアクというか、独自の個性が抑えようもなく滴り落ちている。これほどの才を持ちながら、あたら無名のまま消えていったとは。。。
そしてラストのF"The Prisoner"は、精神病院に囚われたある男の狂気と錯乱の叫びを歌ったもの。ある意味最もヤバい曲でしょう。写真から推測する限り現実世界に適応できなかったのであろうR・ウットン(どーみたって幸せな人生歩んできたとは思えん)、彼のぎりぎりの魂の叫びなのだろうなぁ、この曲。クライマックスに至ってもはやパラノイアと化してしまった男女ヴォーカルのコーラスは、鳥肌通り越して寒気がしますです。
・・・思い入れが強すぎて饒舌になってしまいましたが、ま、こーいう音楽もあるということで。このアルバムに関しては賛同を求めるつもりはありませぬ。わかる人にだけわかってくれればいいやと、そう思うのであります。
(2001.12/28)
★(アルバム未発表の2曲が収録されていた)"Diana"のマキシ・シングルですが、たしか最近…でもないが…再発された1stLPにおまけで付いてました。これはまだ探せば見つかると思います。…といいながらワタシも買ってないけど…
しかしこのLPなんだかんだいっても、かつては('70年くらい?)日本盤も出ていたんですよね。どんな評価だったんでしょうかね。音楽誌なんかにも取り上げられたんでしょうか?…ミュージック・ライフ…とか…
実を言うとワタシはこの日本盤買いそうになったことがあります。
2ndを先に聞いて大変気に入ったので、解説に書いてあった1stも聞きたいと探していたらとあるお店の壁に飾ってありました。たしか1980年ごろのこと。
日本盤は1万円、英国オリジナルが2万円という値段。
高っ!でも聞きたいということで、一週間ほど考えに考えて日本盤を予約しました。
が、結局お金を工面することができずそのままになってしまったのでした。
今考えると、そのころ聞いても良さが理解できなかったでしょうから、きっと手放していたかもしれません。
なんせ'94年頃、日本盤CDで初めて聞いたときもちょっと挫けましたから。
こだきんさんの掲示板で話題を振ったとき鉄の目さんやその他大勢のかたからレスをいただき改めて理解が深まったような気がしています。多謝。
(2001.12/29 byクフロさん)
★ああ、時間の隙をついてやってきて良かったです〜!
お忙しい中ついに鉄の目しゃんが更新してコウマスをUPして下さっていたなんて!万歳〜〜!!
夢中になって読んでしまいましたよ!詳細な解説をありがとうございますねー。
鉄の目しゃんの熱い文章を読んでいて私もすっかり熱くなり「エアフォース・ワン」にかぶり付きの旦那&息子の横でひとりヘッドフォンでトリップ状態です。
私にとってもこのコウマスのファーストアルバムは文句無し今年のインパクト大賞となりました。
(と、同時に車の中ではほとんど何でもかけさせてくれる旦那様から初のイエローカードを喰らった作品でもあります。「そ、それだけは運転に支障をきたすからやめてくれぇええ・・・」だと)
こんなテンションの音楽には、そう滅多に出会えるものではないです。本当に出会えて良かったと心からそう思います。こんな素晴らしいものをご紹介いただいて本当にありがとうございますね。
(>鉄の目さま、クフロ大司教さま。)
狂気と紙一重の妖しい美しさ、のめりこんで聴いているとその世界に引きずり込まれて収まりがつかないほどテンションがガンガン上がっていってしまいます。
私は特にWoottonの作品の虜であります。3〜5曲目までの3連発には完全にやられますね。
ほとんど白目になりそうな快感を覚えてしまい・・もうコレは病みつきってやつですね。
ああ、もうコレ無しでは生きていけません。コウマスは音楽界の合法ドラッグだあ〜〜。
(2001.12/29 by michiyoさん)