●マリコルヌの創設者にしてフレンチ・トラッド界の大御所Gabriel
Yacoub/ガブリエル・ヤクー。彼は元々伝統シャンソンよりもビートルズやボブ・ディランに親しみを感じるパリっ子だったが、アメリカのブルーグラスやオールドタイム等に興味を持ち楽器を手にするようになった。彼の運命を大きく変えたのは70年代初頭のAlan
Stivell/アラン・スティーヴェル(ケルト文化が色濃く残るフランス・ブルターニュ地方の伝統音楽復興のパイオニア)との出会いであった。A・スティーヴェルのバンドでギターやヴォーカルを担当し重要な役割を果たした彼は、その間に伝統音楽を現代的に再現するための方法を多く学んだ。しかし次第にケルトのではなく母国フランスの伝統音楽を指向するようになる。
またこの時期には、英国のフォーク・リヴァイヴァル運動の精神を受け継いだフェアポート・コンヴェンションやスティーライ・スパンが優れた作品を発表していた。エレキ・ギターなどの現代楽器を大胆に用いて英国の伝統音楽を鮮やかに再生させた彼らのアプローチは音楽界に革新をもたらしたが、G・ヤクーにもまた大きな影響を与えた。
73年、A・スティーヴェルの元を離れた彼は妻のMarie
Yacoub/マリー・ヤクー(ダルシマー、ヴォーカル、他)とのデュオ名義で"Pierre
de Grenoble"を発表。同年、この作品をプロデュースしたHughes
de Courson/ユーグ・ド・クールソン(フルート、クルムホルン、ピアノ、他)と、Laurent
Vercambre/ローレン・ヴェルカンブレ(フィドル、チェロ、他)の2名を加えて新バンドを結成する。
フランスの誇るコンテンポラリー・トラッド・バンド、マリコルヌの誕生である。
74年、マリコルヌはデビュー作"Malicorne"を発表。70年代にはほぼ1年に1作の割合で優れて良質な作品を創り続ける。77年の4作目"Malicorne"からはOlivier
zdrzalik(エレキ・ベース、パーカッション、他)が加入して5人編成に、7作目"le bestiaire"ではさらに新メンバーが加わって7人編成になっている。
80年代に入ってからニューウェーヴの影響からか音楽性に変化が現れ、バンド自体も失速。86年の9作目"cathedrales
de l'industrie"を最後に解散してしまった。
リーダーのG・ヤクーは78年に初のソロ作品"trad.arr"を発表。マリコルヌ解散後も現在に至るまでコンスタントに活動を続けている。
またG・ヤクーと並んでマリコルヌの一方の中心人物であったHughes
de Coursonも、Patrick Modeanoとの共作やLa
Confrerie des Fous、Spondoなどで多彩な音楽性を披露している。
(2002.1/28)
| Discography(正規アルバム) ※発売年、タイトル、レーベル |
1974 "malicorne" hexagone (メンバー写真のジャケット)
1975 "malicorne" hexagone (家のジャケット)
1976 "almanach" hexagone
1977 "malicorne" hexagone (星空のジャケット)
1978 "l'extraordinaire tour de france d'adelard rousseau,
dit nivernais la clef des coeurs, compagnon charpentier du
devoir" ballon noir
1978 "en public a montreal" ballon noir
1979 "le bestiaire" ballon noir
1981 "balancoire en feu" elektrales
1986 "cathedrales de l'industrie" celluloid / melodie
| Discography2(ベスト、コンピレーション、未発表音源など)※発売年、タイトル、レーベル |
1977 "quintessence" hexagone (1st〜4thまでのベスト)
1989 "legende" vogue (5th〜9thまでのベスト)
1996 "vox" boucherie productions
(ア・カペラ曲だけのコンピレーション)
| 関連公式HP |
・gabriel yacoub.com
ガブリエル・ヤクーのオフィシャルHP(フランス語、英語のみ)。バイオグラフィー、ディスコグラフィー(マリコルヌ含む)、G・ヤクーの詩やインタヴュー(共にフランス語のみ)、通信販売(02年2月からの予定)など。
"Malicorne"(1974年、1st)

↑雰囲気のあるセピア色のジャケット。左からHughes de Courson、Laurent Vercambre、Gabriel Yacoub、Marie Yacoub。

↑曲目。

↑編成、使用楽器。おフランス語というせいもあるのでしょうか、なんか馴染みのない名前も。。。
★マリコルヌのデビュー作。リーダーのG・ヤクーは、ケルト圏のアラン・スティーヴェルと双璧を成すフレンチ・トラッド界の最重要人物であります。
本作では先輩格にあたる初期フェアポート・コンヴェンションや初期スティーライ・スパンの影響が随所に見られ、フランス版エレクトリック・トラッドといった感があります。中期の洗練された傑作群に比べるとまだ硬さや荒削りな面が感じられますが、この土臭さが大きな魅力であるのもまた事実。
マリコルヌ・サウンドの特徴である緻密なアンサンブルと随所で聴かせる洒落たアレンジは既にこの時点で確立していますね。あと、マリコルヌ特有の翳りというか彫りの深さも既に芬芬と漂っております。
マリーさんの柔らかな美声はもちろんですが、ガブリエルさんのややくせのある渋いヴォーカルがまた素晴らしい。抑揚を抑えた淡々とした歌いまわしの中に凛とした気品が感じられて、実に味わい深い声です。この夫婦、ヴォーカルだけとっても絶品ですね。
後の作品に比べるとかなり硬い感じのサウンドですが、彼らの原点が濃縮された作品。磨きぬかれる前の宝石のような味わいです。
(2002.1/28)
"Malicorne"(1975年、2nd)

↑キングの「ユーロ・トラッド・コレクション」の一つとして国内盤になったアルバム。このシリーズ、極上のヨーロピアン・トラッドばかりをチョイスした好企画だったのですが今は全て廃盤。丁寧な解説に加え対訳付きという良心的な作りだっただけに残念です。中古CD屋でこのシリーズを見かけたら迷わずゲットすることをオススメします。ハズレなし!

↑こちらが本当のジャケット。

↑曲目。
※編成は1stと変わらず。
★マリコルヌの全作品中でも一、二を争う大傑作でしょう。絶頂期フェアポート・コンヴェンションやスティーライ・スパンなどの名作群にも優に比肩するクオリティの高さは圧巻!ブリティッシュ・トラッドに首までずっぽりハマッていた私の目を大陸に向けさせるきっかけになった1枚です。
@「英国の結婚」は荘厳なア・カペラから始まる古楽風トラッド。繊細なギター・ワークとマリー・ヤクーの美声とが印象的です。
リズミカルなA「庭師の少年」、B「歌の中の少女たち」、共にガブリエル・ヤクーの味わい深いヴォーカルが堪能できる曲です。この人の声は本当に素晴らしいですね。柔らかな翳りとでも言うのか、不思議な安心感をもたらしてくれる潤いのある声で。
特にBはヴォーカル、楽曲、ともに絶品の極上トラッドであります。サビに当たる部分はけぶるようなマリーの多重録音ヴォーカルで歌われていますが、これがまた良ひ。幽玄なアンサンブルとあいまって限りなく天上に近い美しさ・・・うう、聴いているだけで涙が。。。(;_;) 次作"Almanach"の無常感漂う美的世界を予感させる実にマリコルヌらしい佳曲です。
軽快なダンス・チューンである「ブーレ」のCの次にはD「結婚の従者」は重々しいトラッド・ソング。ガブリエルのヴォーカルはことにこういった哀感ある曲でその魅力を存分に発揮するように思えます。ドラマのある声というかなんつーか、奇妙な重さと哀感をはじめから背負っているような声なのです。明るい曲は似合わんなぁ。
重なり合うストリングスの美しさが際立つE「ブランル/ラ・ペロネル」は転調を激しく繰り返す刺激的な曲。一見場違いなディストーションばりばりのエレキ・ギターがいかずちのような鮮烈な効果をもたらしています。このあたりのセンスも凄いですね。
F「無遠慮な浮かれ者」はしっとりとしたスローな歌。マリーの柔らかなヴォーカルと乾いたフルートの音が良い。
スティーライ・スパンの向こうを張ったような見事なア・カペラG「「バラを合わせましょう」。マリコルヌもまたア・カペラを得意としたバンドでした。スティーライのように一糸乱れぬ美しいコーラスではありませんが、野趣と洗練とがほどよく調和されたそのコーラス・ワークは一種独特の魅力を放っています。
3拍子の舞踏曲Hを挟んでI「牛飼い」。ヤクー夫妻の絶品コーラスが冴え渡る曲であります。L・ヴェルカンブレのフィドルとH・クールソンのクルムホルンとがしみじみと心にきます。めくるめくコーラスの中、淡く消えていくようなラストも素敵や・・・。
どの曲をとってもこれ以上ないほどの緻密なアレンジ、絶妙のアンサンブル。そして香り立つ気品と魅惑的な深い翳り。文句のつけようもない完成度です。2ndにして早くもコンテンポラリー・トラッドの理想形に行き着いてしまった彼ら、これが頂点かと思いきや・・・ところがどっこい翌年の3rdでは更なる次元への飛翔を見せるのであります。
(2002.1/28)
"Almanach"(1976年、3rd)

↑この素敵なイラストはLaurent Leserreの手によるもの。

↑曲目。おフランス語なので意味はさっぱりわかりませんわ、おほほほ。。。^^;

↑編成、使用楽器。ゲストミュージシャンが多数参加し、アレンジはさらに緻密さを増しています。
★無人島行き決定の魂の1枚。
"Almanach"とは暦のことで、つまり1年12ヶ月をそれぞれ曲にしたトータル・アルバム。「13曲あるじゃん!」とお思いでしょうが最後の13曲目はヴィクトル・ユゴーの詩に曲をつけたものだそうで、いわばおまけ?でしょうか。
前作以上の凝りに凝ったアレンジに劇的な展開、そして小型オーケストラと呼びたくなるような大編成のアンサンブル。13曲中9曲がトラッドなのですがオリジナル曲との区別は聞いただけではまったく感じられず。2作目"Malicorne"でコンテンポラリー・トラッドの理想形を具現してみせた彼ら、この3作目ではもはやトラッドの枠を超えてしまった感があります。
洗練もここまでくるとトラッドというようりトラッドを素材にしたオリジナルの「マリコルヌ・サウンド」と言うべきかもしれません。おそらくフランスのじっちゃん・ばっちゃんがこのアルバムを聞いたら「んじゃこりゃ!」とのけぞるのではないでしょうか。
伝統音楽を素材にしながらも「正確な再現」には固執せず、ロックやジャズの洗礼を浴びた人々にも受け入れられるように再構築した上で「現代的に」再現する。それがコンテンポラリー・トラッド音楽(いわゆるトラッド)の提起した新たな方法論であり、一見単純なそのアプローチがどれほど豊かな地平を切り開いてきたかは今更言うまでもありません。その広大な地平はときにトラッドという枠さえも超え「最良の音楽」としか言いようのない不朽不磨の音楽を生み出しました。この作品もその一つとして永く聴き継がれるに値する、そう思います。
なにせタダゴトではない完成度の高さで、どこを切っても魂に食いこむような素晴らしいサウンドが溢れ出してきます。幽玄なアンサンブルもG・ヤクーの繊細なギターもヤクー夫妻の絶妙なコーラスも、何もかもこれ以上ないほどの高みに到達しております。特に11月のJ"L'ecolier
assassin"の無常感漂う美しさは、身も心もふるふる震えてしまうほど。最初聞いた時はこの世にこんなにも美しい音楽があったのかと感動したものですが、何百、何千回聴こうとその感動が色褪せることがないというのが凄い。関係ないけど、「平家物語」を読んでいるときにこの曲を聴いたときにはあまりのハマり具合に涙が出て先が読めなくなっちまいましたです。^^;
ごく個人的な感想ですが、この作品を聴いているとマイク・オールドフィールドの「ハージェスト・リッジ」「オマドーン」、ラーシュ・ホルメルの「アンデターク」あたりを想い起こしてしまうのです。彼らもまたイギリスやアイルランド、あるいはスウェーデンの伝統音楽を深く愛し、それらのエッセンスを凝縮したような「最良の音楽」を生み出してきたのでした。それらは国も民族も言葉も時代も超えた普遍性を持ち、聴く人の魂に直接訴えかける力を持っているように思えます。表面的なサウンドは異なれど、この"Almanach"もまたそのような普遍性を持った「最良の音楽」の一つだと思うのです。
この作品がフォーク、トラッド・ファンのみならず音楽を愛する全ての人に永く愛されることを。。。
(2002.1/28)