ハーディ・ガーディ(Hurdy-Gurdy)
●フィドルを機械化・鍵盤化した擦弦楽器。フィドルと同じ形の胴体と5〜6本の弦、右手で回転させる円盤、左手で操作する鍵盤、とで構成される。弦は旋律弦とドローン弦とに分かれている。
弓の役割を果たす円盤をハンドルで廻すことによって、全ての弦が同時に、連続的に擦られる。開放弦であるドローン弦がドローン(通奏低音)を絶えず出し続ける一方で、左手の鍵盤で旋律弦を操作してメロディをかぶせる。音量は非常に大きい。
元々はフィドル同様東方由来のものとみられるこの楽器の直接の祖形は、12世紀の中頃から西ヨーロッパに広まっていたオルガニストラム(Organistrum)。この楽器は、・弦が3本のみ(ドローン弦1本と旋律弦2本?)・非常に大型・鍵盤式ではなく一種のボタン式アクションを有していた、などの点で現在のハーディ・ガーディとはずいぶん異なるが、なにより特徴的だったのは「二人一組で演奏したこと」である(画像@参照)。この理由は、両手を使わねば演奏できないほど労力を必要とするボタン式アクションによるものと考えられる。
13世紀になって鍵盤機構が確立したことで、オルガニストラムは飛躍的に改良された。鍵盤を片手で操作できるようになったため全体が小型化されて、一人で演奏できて持ち運びもできるシムフォニー(Symphony)という形態に変化したのである。鍵盤化はまた素早くリズミカルな演奏を可能とし、楽器としての性格も変わった。ゆっくりと和音を奏でる楽器から、通奏低音にのせて軽快なメロディを奏でる舞曲向けの楽器になったのである。そのため庶民階層の歌や踊りの伴奏楽器としても浸透していった。
14世紀までに弦の数が追加されて5弦、6弦のものが主流になり、現在のハーディ・ガーディとほぼ同じものが西ヨーロッパに普及する。
しかし隆盛を誇ったこの楽器も、次第に王侯貴族の元から離れていくこととなる。理由としては、・「声」を重視する伝統的な教会音楽では、オルガン以外の楽器は世俗的なものとして排斥される傾向が強かった ・時代とともにアンサンブルと洗練さが重視されるようになる宮廷音楽で、このような楽器は次第に敬遠されていった(音量が大きすぎ、音も野卑なので)、などが考えられるだろうか。さらに時代が下ると、「悪魔の楽器」と呼ばれて嫌悪と侮蔑の対象にすらなってしまっている。
ともあれハーディ・ガーディは支配階級の手から離れて完全な大衆楽器になっていった。旅芸人などの放浪楽人もこれを好んで用い、彼らによって西欧から東欧各地へもたらされた(ただし一部地域以外ではあまり浸透しなかった)。
現在でもベルギー、中央フランス、スペイン北部、ハンガリーなどでは一般的に使用されている。

↑画像@。12世紀頃の二人で演奏するオルガニストラム(スペインのサンチャゴ・デ・コンポステラ大聖堂の彫刻)。右の老人の手をよく見ると、妙に不自然な形で操作してますね。なんでもこの楽器のボタンアクションは、「ねじって押しつける」ものだったらしく、素早くメロディを奏でることなど到底不可能だったようです。

↑画像A。ハンガリーのハーディ・ガーディ。下のものに比べると大型です。ちなみにこの人はロベルト・マンデル。

↑画像B。こちらはフランスのハーディ・ガーディを演奏しているところ。こうやって見比べてみると、細部は変わっても胴体の形は8文字形のままほとんど変わっていません。
★この楽器も、演奏しているのを見てるだけで楽しくなっちゃう楽器ですね。円盤の回し方も一定じゃなくて強弱、緩急の変化をつけることでサウンドを変えるんですが、意外とダイナミックな演奏。右手をぐるんぐるん激しく回しながら前後に体を動かして演奏しているのを見ると、なんか楽器を弾いてるというよりも、でっかい魚を釣り上げようと必死でリールを巻きとってるようにも見えちゃったりして面白い(こんなのばっかりだな、わし)。^^;
音が馬鹿でかいのも特徴ですが、初めて聴いてなによりも驚いたのが「バグパイプに音がそっくり!」ということ。ほんと、区別できないくらい音色が酷似しているのですね。ドローン付きだし、音が馬鹿でかいところまでそっくり。かたや弦楽器でかたや管楽器、外見も音を出す仕組みもかけ離れている両者が、こんなによく似た音色を持っているというのは何だかとても不思議。ハーディ・ガーディとバグパイプの合奏つーのを一回だけ聴きましたが、目で演奏を追っていてもどっちがどっちだかようわかりませんでした。
あ、上の解説で、かつて「悪魔の楽器」と呼ばれていたとありますが、このあたり興味があるのでもっと詳しい事を知りたいのです。なぜそこまで忌み嫌われなければならなかったのかが、ちょっとよくわからないもので。。。
誰かご存知でしたらご教授くださいませ。
(2001.11/10)